香りにしか自分のレゾンデートル(存在理由)を見いだせなかった男の物語。
女を愛するということも、彼にとっては「香り」をとらえることでしかなかった。
確かに、生まれも育ちも悲劇的な人物ではあるけれど、彼にとっての最大の悲劇は、「嗅覚こそ超人的でも、人間を人間として見ることが出来ない」ことにあったのだろう。
彼自身、最後の最後になってそのことに気づくのだが…。
まあ、かなり変な物語ではある。
というより、半分(寓意と皮肉にあふれた)冗談で描かれた話のようにもみえる。
あれだけ嗅覚が鋭ければ、あの悪臭ふんぷんたるパリの街では、頭がおかしくなってしまいそうなものだが、そこは「彼は、はじめのうち悪臭もいい香りも区別しなかった」ということで上手いこと逃げている。
とにもかくにも、ヨーロッパの香水文化が、日本人の清潔感覚からはかけ離れた、あの悪臭に満ちた街なしには生まれなかったのだろうな、ということが良く分かる映画ではあった。
描写はグロテスクな部分も多いけれど、キリスト教に対するかなりな皮肉等、むしろブラックコメディーとして見た方が面白いかも知れない。