とうちゃんの鼻はいつもまっ赤だ。
それは、とうちゃんがのんべえだからだ。
からだにわるいからお酒やめなよっていっても、
「おれから、酒をとったらなんにものこんねえよ」
と笑っていうだけだ。
だから、かあちゃんもあきれて出ていっちゃったんじゃないか。
それでも、ひるまは、いっしょうけんめい仕事してるから、それだけはえらいかもしれない。
だけど、そのわりには、うちはいつもビンボーだ。
それはやっぱり、とうちゃんがのんべえだからだ。
「サンタクロース?
そんなものは、うちにゃあこねえよ。
サンタも、のんべえやビンボー人は、きらいだってよ」
とうちゃんは、酒くさいいきでいって、わらった。
かあちゃんがいたころには、サンタクロースはまい年きていた。
だから、サンタは、ほんとうに酒のみやそのこどもはきらいなのかもしれない。
ぼくがそういうと、
「そうだそうだ。おまえはさっしがいい」
とうちゃんは、またわらった。
でも、その年のクリスマスイブの日。
ともだちのあっちゃんがいった。
「ばっかでい。サンタクロースなんているもんか。
あれは、とうちゃんやかあちゃんがねているあいだに、プレゼントおいてってくれるんだ。
おまえんちのとうちゃんは、じぶんでのんじゃうから、プレゼント買えないだけじゃん」
ぼくは、ショックだった。
とうちゃんがプレゼントを買ってくれないということより、サンタなんていないということをしってしまったことがだ。
いつかは、また、サンタがきてくれるかもしれないという夢が、コッパミジンにうちくだかれてしまったからだ。
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「ええっ?
ずいぶんと鼻が赤いですねえだって?
そりゃそうよ。この鼻は、俺のエネルギーメーターだからねえ。
今日も元気だ、お酒が旨い!ってね」
「え?
今日は、何の日か知ってますか?
今日は、わたしの給料日!
だから、こうして飲めるのよ〜ってね」
「なに?
クリスマスイブ?
それがどうしたってえの?
ええ?
子どもにプレゼントはいいのかって?
子どもへのプレゼントは、こうしてお父さんが今日も元気においしいお酒を飲め
ることで〜す!
だいいち、俺はりっぱな仏教徒なの。
そういうあんたは、クリスチャンかい?」
「え?
ちょっと一緒に来てくれ?
どこへ行くの?
お酒飲めるならどこへでも行っちゃうよ〜!」
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きょうも、とうちゃんは夜になっても、なかなかかえってこなかった。
ぼくは、あっちゃんのうちのクリスマスパーティーによばれて、ケーキやなんかごちそうになった。
あっちゃんのとうちゃんが、サンタのかっこうをしてぼくにもプレゼントをくれた。
うれしかった。
うれしかったけど、ちょっとさびしかった。
ほんとうのサンタクロースでなくてもいいから、ぼくはとうちゃんからプレゼントをもらいたかったからだ。
うちにかえって、コタツにもぐってテレビを見ていたら、なぜだかなみだがでてきた。
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「うーんと、ここはどこかなあ?
なんだか、馬小屋みたいな飲み屋だねえ。
え?飲み屋じゃない。
どおりでお姉ちゃんもいないわけだ」
「おいおい、なんだい、このけむくじゃらな連中は?
あれ、こいつ、ひっくり返っちゃってるよ。
え!?鳥インフルエンザにやられた!
そりゃえらいこっちゃないの〜。
うつっちゃたまんないよ〜。
はやいとこ出ようよ、こんな店。
さ、お酒お酒」
「え?
こいつの、代わりに先頭に立って走ってほしい?
なんでよ?
え?
お前の鼻が役に立つのさ?」
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朝、めがさめると、とうちゃんがコタツのはんたいがわにもぐってねていた。
そのかおは、なんだかいつもとちがって見えた。
頭に、どっかののみやでもらったらしい、紙でできたトナカイのつのをかぶっていたのもおかしかったけれど、いつでも赤い鼻のあたまが、ぜんぜん赤くなかったからだ。
どっか、ぐあいがわるいのだろうか?
ぼくはしんぱいになって、とうちゃんをゆりおこした。
「うー、いてて。
ちくしょう、人使いのあらいやろうだぜ、まったく。
すっかり酒が抜けちまったぜ。
おう、おはよう。
だめじゃねえか、コタツでうたた寝しちゃあよ」
とうちゃんは、からだじゅうをぼきぼきとならしながらおきあがった。
いったいなにがあったのだろう?
「あ、そうだ。
ほら、クリスマスプレゼントだ」
とうちゃんは、きたまんまのコートのポケットから、ちょといびつになったしかくい紙づつみをとりだしてぼくにくれた。
「え!とうちゃんが買ってくれたの?」
「そうじゃねえよ〜。
あいつが、仕事手伝ってくれたお礼だって、暮れたんだよ〜」
「あいつって?」
「ん?
そりゃ、おめえ、サンタクロースに決まってるじゃねえか」
とうちゃんはそういってわらうと、またひとつのびをした。
へたなうそだったけれど、ぼくは、ほんとうにうれしかったよ。
※去年の
サンタ話がちょっと暗かったので、今年は少し明るめに。