8)雪の降る町で(2)
声をかけようとして、僕は、のどまで出かかった言葉を飲み込んだ。
ふたりが、何だかひどく深刻そうな顔をして喫茶店に入っていったからだ。
きらと黒沢先生がどういう関係なのか知らなかったけれど、気軽に声をかけられる雰囲気ではなかった。
ふたりが店に入ってしばらくしてから、ぼくは思いきって通りを渡り喫茶店の窓からなかをのぞいてみた。
店のいちばん奥のテーブルに、ふたりはむかいあって座っていた。
黒沢先生は、腕組みをして天上の方を見上げ、きらはぼんやりと水の入ったグラスを見つめていた。
その顔はなんだか涙ぐんでいるように見えた。
ぼくは、それ以上見ていてはいけないような気がして、とぼとぼとまた画材屋の方に通りを渡った。
もしかすると、ぼくのいとこかも知れない女の子に何があったのか、気にならないわけはないけれど、無神経にその場に踏み込んでいく勇気はなかった。
大きさを増しはじめた雪が、ぼたぼたとぼくの頭や肩をたたく。
なんだか、町全部が泣いているような気がして、ぼくは慌てて店のなかに入ったのだった。
(続く)